プロとベテランの大いなる違い


その会社は、欄間(らんま)などの建具を作るとっても小さな会社です。
その会社の社員の中に「この道40年」の頑固な職人がいます。
私は、仕上がったばかりの美しい欄間を目の当たりにして、思わず「プロですね、匠の技ですね」と漏らしました。
すると「いえ、ベテランですよ」と隣にいた社長が私に言いました。
社長は「うちにはプロは要りませんよ」と言うと、「必要なのはベテランだけですね」とニコッと笑いました。

そこで私は、プロとベテランの明確な違いを社長に訊ねました。
すると社長は、次のように言いました。

例えば、ある人が病院へ健康診断に行ったとします。
その人は「安心したい」から嫌々ながら行くわけです。
間違っても異物を見つけて欲しいわけではありません。
しかし、病院の先生方は一生懸命に探し出します。
異物をね。それがプロです。
とにかく血眼になって探し出します。
ところがベテランの先生と言えば、懸命に探しはするものの、その人が「安心したい」ということを十分に理解しています。
プロとベテランのその違いは、たったそれだけです。

やっている内容はまったく同じなのに、相手への気配りがあるかどうかです。
技術的な腕などほとんど変わりません。

つまりプロになるだけなら腕さえあれば、たった1年でもなれます。
でも、ベテランになるには少なくともそれまで生きてきた年数分は必要となります。
キレイに切るだけなら魚を三枚におろすのも盲腸を切るのも同じです。
腕がいいだけの職人なら、日本中にたくさんいます。

私は、深くうなずきました。

自分のことをプロと誇らしげに言う人はいますが、自分のことをベテランと呼ぶ人は少ないです。
もっと言ってしまえば、ベテランはいい腕などなくても構いません。
そこら中に散らばっているプロを上手に使えばいいわけだから。
お客さんは、決していい腕に集まるわけではなくて、そこにある目に見えない「安心」に集まるだけです。
きっと最初はいい腕に集まると思いますが、それだけだったらすぐに去って行くはずです。
プロと呼ばれる人は、上手に使われる一流の職人です。
そして、ベテランとはプロを巧みに操る一流の人間なのです。